ハラワン
ハラワン
繁次郎の口車に乗せられて、金を貸したものが沢山いたが、中でも久丁という商家は、ときどきペテンにかけられるので大立腹。
毎日のように番頭を使って催促したが、言を左右にしてなかなか払わない。
その年の大晦日に、きょうこそはと番頭がマナジリを決して飛び込むと、繁次郎は寒中というのに、真ッ裸で部屋にひっくり返り、腹の上にお椀を一つのっけて、ウンウンうなっている。
仮病を使う手はもう古いと、
「繁次郎。その手には乗らねぇ。
ネンチクタラ者(お前のような者)にだまされてたまるか。
さぁ耳をそろえて払ってけろ」
すると繁次郎は苦しい息の下?から自分の腹を指して、
「番頭さん、みてけろ。俺の返事はこれだ」
小首をかしげていた番頭は、やがてハハーンとうなずいて、
「なるほど、腹に椀を上げて“はらわん”か。
あーあ、おめぇとではとても話にならねぇ」
と、笑いながら帰ってしまった。