二人前
二人前
小男のくせに余りの大食漢なので親方も呆れて、
「仕事の方アさっぱりだども、朝から晩まで人の顔され見れば、メシメシと、まるでケガヅホイド(飢餓の乞食)そっくりでねえか」
繁次郎は一膝乗り出して、
「親方。いざとなれば、いつでも仕事ァ二人前だ」
「本当か」
「ゴアイ(自慢)ではねえが、一人で二人前の男と名取りの繁次郎だます」
これを聞いた親方は何を考えたかニヤリと笑って、
「一人で二人前といったな」
「ンだ」
「よし、それならお前に頼みがある。泊村の別家さ行って、オドチャ(親父)にすぐ来てもらってけろ。それから五勝手(江差)のイッキマキ(親類)さも行って、すぐニシン潰しの手伝いに来いってな」
「いいとも」
「一人で二人前の仕事ができるはずだから二軒の家へ一緒に行くんだぞ」
たんかは切ったものの、東西逆の方向に使いをいいつけられたので、繁次郎もちょっとドギマギしたが例の薄笑いで、
「よく判った。見ンごと使いして来るしけ、先ず飯を食わせてけろ」
「ああ、いいもなも」
お膳を据えると、ガツガツと六、七杯かっ込み、ゆっくり湯を飲みながら親方の方に向きなおった。
「ヘッカグ(せっかく)の相談だども、この使いだけは、やっぱりできねえ」
そうれ見たことかと得意顔の親方が、
「フン。おめえもやっぱり口だけの男だったか」
すると待ってましたとばかりに繁次郎、
「親方。考えてもけろ、俺ァ二人前の仕事をたしかに引き受けたども、いま食った飯の膳ァ一人前でねえか」