キンキラキン
キンキラキン
松前の海で得体の知れぬ魚が獲れた。形はカレイのようだが、金魚のようにきれいでキラキラ光っていた。
この珍魚は早速、殿様へ献上されたが、家臣はもちろん、町のもの知りも一人として魚の名前を知らないという。
この話を小耳にはさんだ繁次郎、
「俺は名前を知っている」
とふれ回ったので、松前の殿様から呼び出された。殿様の前に平伏した繁次郎、
「その方、この珍魚の名を知っておるというが、まことか」
「へへーッ、この松前界隈でこの魚の名前を知っているのは、江差の繁次郎ただ一人でござり奉ります」
「ふむ。して魚の名は、何と申すか」
繁次郎、横目でその魚をにらんでから一膝進めて、
「されば、この魚は、オロシアの海で時々獲れるキンキラキンのキンと申すものでござり奉ります」
「ふーむ。キンキラキンのキンと申すか。妙な名前じゃのう」
ということで褒美の品を賜り首尾よくご前を退出した。
さて、その翌年のこと。
またまた松前の殿様から呼び出しを受けたので、何事ならんとビクビクしながらいると
「繁次郎。よく参った。去年の夏、そちにあれなる魚の名を訊ねたが、その後、名前をトンと失念してしまった。何という名であったかもう一度教えてくれえ」
「ハハーッ、有り難きお言葉、されば、あれなる魚は・・・・・」
と、くだんの魚を見ると、とっくに干からびて、コチコチになっている。
去年なんと答えたかを、とうの昔に忘れていたので、ぐっと詰ったが、そこは頓智の神様、
「ええーと、カンカラカンのカンと申す名前でございまする」
すると殿様がポンと横手を打って、
「おう思い出しだぞ繁次郎。そちは、去年たしかキンキラキンのキンと答えたはずであったが・・・・・」
繁次郎はこのとき少しも騒がず、
「さればでござります。イカを乾かして、スルメと呼びますように、キンキラキンのキンも干からびたときは、カンカラカンのカンと申し上げ奉るのでござりまする」