神、天降り、ここに宿り給う
神、天降り、ここに宿り給う
江差の人間にとって8月は、一年中で、最も待ち焦がれる特別の月です。ここでは一年の中心は、盆でも正月でもなく8月9日、10日、11日の“江差姥神大神宮渡御祭”なのです。それは、江差を離れ、他都市で暮らしている人々にとっても同じです。「今年の姥神さんの祭りには帰るのかい?」といった会話が、日本各地の江差出身者の間で交わされるのです。北海道最古といわれる歴史を今に伝える熱狂の3日間。
ここにそのすべてをご紹介します。
躍動
渡御は本祭の10日、11日それぞれ午後1時と正午から始まります。猿田彦の行列が先導して、3基の神輿と鳳輦(ほうれん)が続き、その後に華やかな町内13台の山車(ヤマ)がにぎやかに従います。行列が通る時、もし家の洗濯物が見えたり、二階の窓から一行を見下ろしたりすると猿田彦はその場に座り込んで動かなくなってしまいます。行列は猿田彦の意のままに止まったり進んだりして、町内を巡ります。
華麗
祭りを盛り上げるのは山車の役目です。各町保存会の人々は、この日のために山車を守り続けています。13台の山車の中には宝暦年間につくられ、道文化財にもなっている神功山や同じく弘化2年につくられ、道文化財に指定されている松寶丸など、ただ高価なだけではなく、歴史的にも貴重なものなのです。でもそれが博物館に飾られるのではなく、生きた歴史として、今もなお祭りの主役として活躍しているところに、江差の祭りに対する熱い思いがうかがえます。
童子
祭りの昼の主人公は子供たちです。江差の子供たちは幼児のうちから山車に魅せられ、ながい町内巡行に引き回され、いつしか「祭り」をその魂に染込ませていきます。そして小中学生になると「笛吹き」や「太鼓打ち」に夢中になり、やがては山車が電線に引っかからないように棒で防ぐ「線取り」などがあこがれの役目となります。こうして江差の子供たちは、いつかは人望を集め、山車の総責任者「頭取」の役に就くことを夢見るようになるのです。
響宴
巡行中、笛や太鼓の祭り囃子がとてもにぎやかです。この祭り囃子は京都祇園祭の流れをくんでいて、神社前や各家に停まる時は「立て山」進んでいる時は「行き山」、町内に帰る時は「帰り山」とそれぞれ異なります。さらに同じ「立て山」「行き山」「帰り山」も各山車によって独特の調子を持っています。毎年、「祭り囃子コンクール」が開かれ、神社前から江差町会所会館(旧役場庁舎)前までのコースはお囃子が採点されますので、その競演にもいっそう熱がこもります。
宿入れ
夜の神事のハイライトは神輿が神社に戻る「宿入れ」です。8人の白丁子がタイマツの火で、参道をはき浄めるように駆け登り、それに続いて神輿も石段を駆け登ります。しかし一度では神意の嘉納するところとはならず一基目は7度、二基目は5度、三基目の「本宮」は3度目にようやく神殿に納まります。七・五・三の吉数を踏むわけです。汗をとばしながらの往っては帰し、帰しては往くその力技に、見る者、担ぐ者の熱気が一体となってほと走ります。
歓喜
この祭りの最大のクライマックスは、なんと言っても11日の本祭り最後の夜です。とっぷり暮れた夜空の下、神輿が神社に帰り宿入れを終わるころ、ホテルニューえさし前の十字路には次々と光り輝く各山車が集合してきます。街頭放送のスピーカーがそのつど山車の名を絶叫します。沿道は人でぎっしり。エンヤー、エンヤーの掛け声、力まかせの太鼓の響き、飛び跳ねる者など、「立て山」囃子の競演が続きます。いつしか太鼓も火のついたような乱れ打ちとなり、人々の熱気と歓喜は、燃え盛る光と音の渦となって江差の夜空を衝き上げます。クライマックスの締めは一転して荘重な調子の「キリ声(沖揚音頭)」。頂点に達した興奮が静かな言祝(ことほぎ)の響きの中で、祭り独特の哀感とともに鎮められていきます。虚脱したように沿道にしゃがみ込む人。遠くから聞こえるなごりおしな囃子の音。祭りの後のもの悲しさ。江差の人々はすでに秋の気配を感じています。
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